人気ブログランキング | 話題のタグを見る

美女と野獣

アニメ、ミュージカル、ミュージカル映画、何かと話題の「美女と野獣」の原点は……。



美女と野獣
  • ボーモン夫人
  • 角川書店
  • 540円
Amazonで購入
書評



ボーモン夫人というのがこの作品の作者の名前ですが、他にももう一つ以前に書かれたヴィルヌーブという人の版というのもあるようです。大筋は同じなのですが、先のヴィルヌーブ版の方が長く詳細な設定があるとのこと。

ボーモン夫人は良き婦女子の教育のために物語を綴ってきた人で、こどものためにより簡潔に解りやすく物語をまとめています。書かれた時代はフランス革命以前、フランス人のボーモン夫人はすでに「無能で放蕩放題」のボーモンと別れ、再婚の後イギリスに渡った後のことです。(「無能で放蕩放題」っていうのは夫人がどこかでそう言ったのでしょうか。でも作家名は「ボーモン夫人」……、この辺りが気になるところです)


この短編童話集全部、最初から最後まで一貫して伝えたいことは同じ。
「つつましく、驕ることなく、人には思いやりを持って」「見た目がいくら良くても中身を磨かねば本当の愛や幸せはつかめない」「持って生まれたものが良くても 周囲の育て方でわがままや癇癪持ち、思いやりのない人間になる」「真に誠実な友を持て」などなど。こんな教訓を含んだお話がしっかり詰まって15話。(ちょっと食傷気味でもありますが。)


「美女と野獣」に関しては実にシンプルなお話なのですが 最近の映画にはなかったベルの兄弟姉妹の存在がありました。お姉さんが二人いて、お父さんのお土産は何が良いかという問いかけに高価なものを望みますが、、ベルは「薔薇を一輪」というのです。お姉さんたちは見栄を張り贅沢を好み、嫉妬し、意地悪をする人間の象徴としてベルと対比されます。もちろん最後には その報いとして罰も受けることになっています。3人のお兄さんというのは物語に実際には登場しません。居てもいなくてもいいなんて何か可哀そうな存在ではあります。(居なくても物語は成立します。)

他のお話14話についても軽く触れておきます。
婦女子向け教訓話とはいえ、王様 王子様といった男性が主人公の物語もたくさんあります。仙女も多く登場し、生まれる前や生まれてすぐの赤ん坊に贈り物という形で魔法を掛けます。中には その子に悪いことばかり起きるとか醜い容姿で生まれるといった、一見酷い贈り物もあるのですが、それは必ずしも悪い結果を引き起こすためでもありません。不遇な彼らは耐えること、乗り越えることを知り 多くを望まず自分の置かれた状況を理解し、受け容れます。決して高慢にならず、身分、立場、外見にとらわれず公平で親切な人に育つのです。それに対して「何でも望みが叶う」ように魔法をかけて貰った子供、美しく生まれた子供はわがままに育ち、結果的には幸せになれません。時には良い資質を持ちながらも乳母や召使、家庭教師などが権力者に気に入られるため、または教育について不熱心なため、いい加減な育て方をされ、ダメな大人に育っていくのです。

本を読み、賢い人たちと機知にとんだ会話を楽しめるようになり、思いやりを持って 見かけにばかりとらわれず相手の内面を見る。相手に内面で判断してもらえるように自分を磨きなさいとボーモン夫人は語り掛けるのです。


たまに醜い上に意地悪な仙女が登場します。間違った考えのまま死んでしまう人も 罰を受けて許されないままの人もいます。仙女の単なる気まぐれで酷い運命をたどる人だっていたように思います。 あれれ、これはボーモンさん的にOKなのかな、と思ってしまいます。(大抵は「自分の欠点を知り 真摯に直そうと努力し続ければ欠点は克服できて良い人間になれ、良い結果が訪れるとされています)まあ、たまにそういう存在でもなければ結果の解る教訓話ばかりで退屈なのですがね。

「美女と野獣」を映画にして、耽美な物語に昇華させたのはコクトーだといいます。劇団四季と最近の映画は観たことがあるのでそれぞれの改変具合を比較しつつ、観るのも面白いと思います。(「つるのおんがえし」「鶴女房」「夕鶴」の違いのような感じかと勝手に理解しています)

この角川文庫ではオリジナルの石版画の挿絵が使われています。カバー装画は「東逸子」さんとなっています。絵本なども多く手掛けておられる画家さんで、検索したら目にしたことのある絵本もありました。とても美しい表紙です。必見。

by nazunakotonoha | 2018-09-28 18:49 | 海外の作家 | Comments(0)