人気ブログランキング | 話題のタグを見る

サド侯爵夫人・わが友ヒットラー

女性だけの「サド侯爵夫人」、男性だけの「わが友ヒットラー」。舞台装置の転換も、小道具もほ
とんど使わず 語りが全て。登場人物のバトルでもあり、作者と役者とのガチバトルでもある。


サド侯爵夫人・わが友ヒットラー
  • 三島由紀夫
  • 新潮社
  • 420円
Amazonで購入
書評


サド侯爵夫人

サド侯爵夫人のルネ、その母モントルイユ夫人、妹アンヌ、、訪問客サン・フォン伯爵夫人、シミアーヌ男爵夫人、家政婦のシャルロットが 3幕で入替わりはするが、全ての登場人物だ。

「サド」と言えばもう どういう趣味嗜好の人なのかはみなさんご存知だろう。
史実をもとに、家族以外を創作の人物で作り上げた世界だが、作者の脳内だけで 作者とは時代も国も違う女性たちの心理、裏表の顔を創り上げ、表に投げ出される「ことば」のみで見せていく。その実に鮮やかなこと。

サド本人は逃亡、投獄などで3幕とも登場しない。その罪状、所業については女性たちの言葉からそれと知れるのだ。

「貞淑な」妻のルネは、そんな夫の趣味嗜好 罪までも受け容れるかのようで、家柄や体面、常識を重んじる母は そのためなら他人を使い、肉親を騙しもする。

奔放なサン・フォン夫人はサド侯爵に親しみさえ覚え、その言葉に耳をふさいで神に救いを求める「敬虔な」シミアーヌ男爵夫人は、サド侯爵の幼馴染として彼の行為に「良心」を探してみたりする。耳を塞ぎながら結構ちゃんと聞いている彼女の行為は「良識的」をきどった 実はゴシップ好きの現代にもいる女性のようでもある。(3幕では彼女はすでにちゃんとした修道女になっているのだが)

妹のアンヌは自由で その残酷な素直さで、姉の夫と逃亡を共にし不実なことをさらりとやってのけ 姉の前でもそれを隠さず恥じることもない。

ともかく3幕ずっと 壮大なる口喧嘩だ。そして全てが体面する相手に投げる言葉となっている。
(「心の声」的な独白はおそらく無かったと思う)

怖ろしく長いセリフが延々と続き、どんなにか役者泣かせだろうと思うのだが、「YouTube」で公開されている舞台(新妻聖子主演)は衣装も一見の価値があり、全て驚くほど見事に演じ切られていた。
他にも男性だけで演じられた舞台や、蒼井優の主演のものも機会があれば観たいと思う。


年老いてくたびれた姿でやっと解放され、戻って来たサド侯爵は 驚くほどあっさりと見捨てられる。舞台には一度も登場しないままその輝きは消えうせる。侯爵夫人ルネは 侯爵と会おうともせず、修道女になる決意を固めるのだ。
ルネにとってサド侯爵が「獄中の夫」であることが そんな夫を献身的に支えるという自分自身を愛するために、必要だったのかもしれない。

ルネが大事にしてきた「献身」や「貞淑」を、獄中で書きあげた著書の中でだたひたすら不幸に陥れたことだけが この結末を引き起こしたわけではないかもしれない。




わが友ヒットラー

ヒットラーを親友として信じ、「粛清」されてしまった軍人の話。というのはちょっとまとめすぎかもしれないけれど。
単純な筋肉バカ 友情を熱く語る軍人のレームを 結局のところその「親友」ヒットラーが切り捨てた事件の話。


男性ばかりの作品で 内容も難しい。舞台は華やかさには欠けるし 冒頭がヒットラーの演説と政治経済絡みの客人の会話を交互に聞かせる演出だが サド侯爵について語る貴婦人方の会話に比べとっつきは悪い。

単にヒットラーよりサドを語るご婦人の会話に 私が魅かれてしまったせいなのだが もっと歴史的な経緯を解っていたら よりこの戯曲も面白く読めたことと思う。



by nazunakotonoha | 2016-09-06 20:06 | 三島由紀夫 | Comments(0)