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うたかた サンクチュアリ

実家の本棚にあった古い本。少し黄色いページがきらきらとして。


うたかた/サンクチュアリ
  • 吉本ばなな
  • 新潮社
  • 380円
Amazonで購入
書評
いつ読んだのか、すっかり忘れていた。若いころ買って読んだのだろう、ページはもう黄色い。


比較的最近に「キッチン」「みずうみ」を読みなおしレビューも書いたので、この「ばななさんらしい感じ」にすっかり懐かしさのようなものを感じたのだった。

黄色いページから溢れる言葉は相変わらずみずみずしくて、どこを取っても「金太郎飴」のようで(ちょっと違うか。)きらきら輝いている。

「うたかた」では 「人魚」という(変わった)名前の女の子と少し年上の嵐、「サンクチュアリ」では智明と少し年上の馨が登場します。どちらも語り手となる主人公の一人称で語られるので 「地の文」からそれぞれの個性的な比喩や言い表し方が溢れ出してくるのだ。
だからといってどの登場人物も 周囲から浮き上がった突飛な思考や感じ方のひと、という風に描かれているわけではない。というか、作者の持つ景色やものごとを表現する「言葉」はそれが「普通」で、「普通に」紡ぎだすとそんな風に、きらめく言葉のオンパレードとなるのだろう。

「うたかた」での「淋しさ」についての表現は「ふと目覚めてしまった夜明けに、窓いちめんに映るあの青のようなものだ。」といい、「サンクチュアリ」での「イチョウの木を見上げて見る青空」のような心のありようとか、そうやって文にされたら ああ、そうだよね、と納得する。

「兄弟ではないかと疑いつつ恋に落ちる(?)若い男女」とか「不倫相手を自殺で亡くした男と未亡人の運命的な出会い」なんて、あらすじだけを説明すると何だか昼ドラか昔の少女漫画みたいでもあるが、例えば「うたかた」の主人公「人魚」の「どこにでもいそうにない」環境や生い立ちと、それを重くも暗くもしない語り口、のほほんとした性格はそれらと確実に異なるし、「サンクチュアリ」でも全くドロドロしたものや薄暗さを感じさせない まっすぐで清潔な人物造形と会話の美しさは この作者ならではだと思う。


「付箋をつけたら付箋だらけになる」と書いた以前のレビュー同様、付箋こそつけなかったが、煌めく文章にどっぷりはまって読了したのだった。

by nazunakotonoha | 2016-06-11 21:17 | 吉本ばなな | Comments(0)