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うさぎパン

表紙が素敵。高校生カップルがほほえましい。
ふたつの母子関係もそれぞれ良く、ラストでは涙が…。
だけど ここだけは、ということを書いていいのかどうなのか。


うさぎパン
  • 瀧羽麻子
  • 幻冬舎
  • 520円
Amazonで購入
書評


手放しで良かったよ、オススメ、と言いたい。
そしてこのもやもやを持て余して 色んなレビューを探してみたが
良かった、ほんわかした、心があったまった、的なのがとても多い。

同じ所に引っかかった人も僅かにいたけれど 軽く疑問、くらいでスルーして
やはりラストは良かった、となる。

引っかかった人はレビューを書かないのか。引っかかって全部嫌いになっちゃったんだろうか。貶すようなレビューは書きたくない。全部嫌いになるには惜しい、と私は思う。沢山の人が良かったという本のすみっこ突いて難癖つけるようで気が進まない。でも・・・。

と、ここまで書いたら逆に読みたくなってくれるだろうか。
誰か私に そこはこうでなくっちゃダメなんだよ、こうだから意味深いんだよ、と解説して下さったら嬉しい。

ネタばれの前まで先に書きます。
パンの好きな高校生 優子。同じくパン好きで いずれは父のようにパン職人になる夢を持つ富田君。ふたりはパン屋さん巡りをする同志です。淡い恋心も芽生えつつ
でも「同志の関係」のままで話は当分続きます。
この二人の関係がなかなかいい。爽やかでのびやかで。
二人のパンの趣味も良く 甘いのよりおかずパンや固いフランスパンが好きな 私好みのパンが沢山出て来て 今すぐにでもパンが食べたくなります。

そして家庭教師の大学生、美和ちゃん。理系の大学生で個性的で可愛い。優子の成長を優しく見守り 時に相談相手となります。将来のこと、恋愛のこと 高校生なりの若い悩みや喜びが優子の言葉で語られ、成長していく過程を 自身の思い出なんかとも重ねつつほのぼのと読んでいける物語です。

それだけでは終わらないのがこの話の変わったところで、優子が3歳のときに亡くなった母「聡子」が 時折美和ちゃんの身体を借りて登場し出します。別にホラー展開はありません。
「それは そういうもんなのだ」という物語の流れ、優子が何でも自然に受け止める子なので 結構あっさりとこの状況は「普通」になります。(これは私の引っかかりどころではありません。別にそれでもいい。)
優子には今 ミドリという「まま母」がいて それなりに結構いい関係を築いています。「血のつながりを気にしない」と優子自身ももともと言っているし、そもそも最初は「聡子」について何の記憶も感傷もない様子です。
聡子が登場するまでに、そのことは優子の言葉で読者に伝えられているので、幽霊(?)の聡子と徐々に心を通わせていく様子もまた微笑ましく、生きてる方と亡くなった方、どちらの母親とも仲良くできる優子を羨ましくさえ感じます。

聡子と美和ちゃんの応援もあり、優子も「ひとを好きになる」ってことを真っすぐに受け止めて行くようになります。美和ちゃんとその彼氏、優子と富田君の遊園地のダブルデート場面なんか 読んでいてにこにこ(にやにや)してしまいます。いいなぁ 青春。

そして最後の感動ポイントは クリスマス。
忘れていた大事な記憶が 美和ちゃんからの「うさぎのぬいぐるみ」のプレゼントで鮮やかによみがえるシーン。いいです。映像が浮かぶようです。
3歳までの記憶って、写真を見て、とか誰かに聞いて覚えているような気になっていたり、またはすっかり忘れていたのに何かふとしたことで あれ、何だっけ…と頭をよぎったり。(人それぞれかと思いますが 私はあまり沢山は覚えておりません)

優子の場合はお母さんを亡くすという非常に悲しいことがあったので、きっと記憶を封じてしまったのではないかと思うのです。良かったことも、楽しかったことも。お母さん(聡子)が大好きだったってことさえも。何の記憶も思い入れもないと散々先に言ってきたそのことが ここで鮮やかに転換します。聡子お母さんと「うさぎパン」の思い出と共に。

さて…良かった、素敵なお話だった…それで終わるなら良いのですが どうしたら良いのか、その前にひとつとんでもない(と私には思える)展開があるのです。

----以下 重要なネタバレ含みます。どこが私のもやもや点か知らないまま 
   先に本を読んで頂いても良いかと思います---------------------------------






もともとミドリさんというのは父の「愛人」だったと、わりと早い段階でこの物語のトーンに似合わない言葉が出てきます。さらりとですが。
聡子が優子の成長を見守って やがて「消える」その前にひとつ、「優子は知る権利がある」と吃驚な事実を教えてくれます。
ミドリが実は本当の生みの親。更には父は聡子とミドリに ほぼ同じ時期に赤ちゃんを産ませるようなこと(!)をしているわけでして。それだけじゃなく 聡子の赤ちゃんは生きてうまれて来ることができなくて 聡子がその後、生死の間をさまよっている間に養子縁組したとか。
もう いいのって言うけど 聡子さんは苦しまなかったわけがない、そこをそんなにさらりと言ってのけ その上お父さんは素敵だと 聡子とミドリ、二人とも言う。好きだって。
(お父さんは単身赴任海外設定で、全く登場しません)

そこのところをダラダラ書いたら まさに昼ドラ真っ青なドロドロにもなりかねません。さらっとした書き方で良かったとは思います。
聡子さんは夫を愛し、3年育てた優子を愛し、さらに優子を産んで手放してくれたミドリに感謝し、今優子の傍にミドリが居ることを喜んでいるわけです。優子にとっても色々不思議な展開が多すぎて あんまり驚かなくなっているらしく、その驚愕の事実にもさほど反応を示さない。
でも 優子が成長と共にいつか深くそれぞれのその時々の想いを想像するようになったとしたら、誰かを責めたり 嫌悪したりはしないのかなぁ。ミドリさんと血が繋がっていると教えて貰えてよかったと思えるのかなぁと そこがどうしてもの引っかかりポイントです。

一度に二人に子供作っちゃったとか、しかも妻は身体が弱く、産むと母体に響くことが解っていたとか その結果どうなった、とか…どうして この展開なの?この設定でないといけなかったの?そこにどんな作者さんの意図があるんだろう。

この設定在りき…とするならば せめて聡子はいつ自分の赤ちゃんが居ない事実を知ったのか、愛人ミドリの産んだ子を代わりに育てるということに葛藤は無かったのか…そこを優子に納得させる会話があって良かったのでは、と思います。
憎しみや悲しみを、赤ちゃんを失った悲しみを、無垢な赤ちゃんである優子の存在が全て帳消しにしてくれた、とかね。(でもダンナだけは どうしたら受け容れられるか 私には解らない)。
おばあちゃんが息子の「愛人」の存在を嫌悪して、未だミドリを受け入れないという説明は解りましたが それは無くてもいいから もっと聡子の気持ちの落ち着きどころ、真実を教えて優子に何を伝えたかったのかを 優子との会話で伝えてくれたら スッキリしたのにな、と思います。折角亡くなった本人が出て来たんだからね。



・・・・と すみませんっ!引っかかっているの全部言っちゃって。
良かった所を共感できて 私のもやもやを解消してくれるレビューをお待ちしております。

もう一編あるスピンオフ作品の「はちみつ」は 素直にとても好きな話です。

by nazunakotonoha | 2013-11-09 00:06 | 未分類(国内) | Comments(0)