IE9ピン留め

失はれる物語



失はれる物語
  • 乙一
  • 角川書店
  • 580円
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書評



切なくて 優しい 短編集。
ホラーのイメージも強い作家さんだけど 
その発想力の凄さには いつも驚かされる。
温かい気持ちになる作品が詰まった 宝物のような作品群。



息子が感想文で悩んでいる。
何を書いたらいいのか解らないという。
母はこんなに 本も感想文書きが好きだというのに。


推理小説やホラーとかならたまに読む 中学生。乙一も読んだことはある。
そんなうちの息子。

で、薦めたのがこの本。

その 乙一さんの書く 別な世界。温かで切なくて 優しい物語。
どの短編も大事に置いておきたい宝物のような作品だ。

表題作は 事故に遭った主人公が
腕の一部だけの感覚で世界とつながっているという話。
自分に置き換えると どんなに心細く恐ろしいかと思う。

人間の五感はどれも大事で必要だけど
残ったどれかで 必ず誰かとつながることができる。

妻はその腕に 指文字を書き 
主人公はわずかな指の上げ下げで答えるのだ。

そして ピアニストの妻は 腕を鍵盤にみたてて
演奏を始める。

腕から主人公の脳に
音楽が流れ出すのだ。時に優しく、時には悲壮に。
音楽は雄弁に妻の心情を伝え、それは時には妻さえ意図しないところまで表現している。

暗闇で他の感覚もなく 妻との唯一のコミュニケーションに
かすかな光を見出し・・・・

けれど いつまでそれは続くのか
そして いつしか 妻の気配が消えた時
主人公はなにをよすがに生きていけるのか

人間の「感覚」と「感情」について
そして「生きるために必要なこと」は何だろうと
そんなことを考えながら
とても切なくなる一編です。

# by nazunakotonoha | 2011-08-23 01:08 | 「感想文」

パレード


パレード
  • 吉田修一
  • 幻冬舎
  • 560円
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書評


まるで インターネットのチャットのようにリビングに集う住人たち。
優しくて仲良くて でもどこか実は一線ひいた関係。
これくらいが良いとぬるま湯に気持ち良く浸っていると 
後で足をすくわれるのかもしれない。都会の2LDKで一緒に暮らす4人の男女。

どこにでもいそうな 優しくてちょっと頼りなくて 憎めない大学生 良介、
OLを辞めて売り出し中の俳優の元カレからの連絡を待って
いつもリビングに居る琴ちゃん、
身体のパーツをモチーフにイラストを描く未来はかなりの酒豪で、
元からの住人(最初は付き合っている彼女と二人で住んでいた)は 
映画配給会社社員で28歳の直輝。


19歳の良介のよくある大学生ライフ。問題といえば先輩の彼女を好きになったことで 
この展開や大学生の生活感覚については あるあると普通に感じる人は多いかもしれない。
田舎から出してくれた 理解ある父との関わりは いい話ではある。

琴ちゃんの生き方についても 恋人と田舎で一旦別れた事情については 
考えさせられるところが多いが それでもやっぱり 
うん そういうものかもしれない…と思ってしまう自分がいる。
そうやって離れた相手を追って来て 
「呼ばれたら出て行く」関係を続ける そんな行為をするかどうかは 
ひとによるなぁとは思うけれど。

未来はさばさばした大人の女性に見えるが 彼女のトラウマは後で顔を出す。
唯一 彼女が近隣で起こる通り魔事件の「犯人は誰か」に興味を持つあたりは
ここに通じているのかもしれない。

直輝は一番大人で 相談に乗れて 好きなことを仕事に出来ていて 健康にも気を遣っていて
…と 一番表面的に難がないかもしれない。
別れた彼女とも ドロドロせずに関係を続ける「都会的」な男。


語り手がそれぞれ自分たちで章が成り立っているだけに 
それぞれの観点からのお互いの人物像が垣間見え、どれだけそれぞれが「自分」を出して(出さずに)心地よい距離を保っているかが解る。

「怖い」という評価をあちこちで見かけるが 何故ということは最後まで読み進めたら解る。
表面上の仲良し関係なんて「怖い」「気持ち悪い」と 
後でそれまで読んできた章を 改めて思い返してみるかどうかは 
どれだけ自分の実際のひとへの関わり方と近いかで変わって来る。

でも この関係が「心地よい」「こういうの解る!」と感じた人にもやっぱり 
こんな状況は恐ろしいのかもしれない・・と思わせる 仕掛けも用意されている。

4人に後から加わり 外から4人を観る目線にもなる立場のサトル。
彼の思い出話が
「言ってもいいけど 全部ウソですよ」と 前置きして語ること、
結局 お互いの本当のところなんて 解らないし解り合えないし 解らないままでも
「仲良く暮らす」ことができるのかもしれない、ということを 物語っているように思う。

正直にぶつかりあって 傷ついても 壊れてもいいから
心からの友達や恋人をつくりたいと思うかどうか
自分に問いなおしてみるのもいいかもしれない。



# by nazunakotonoha | 2011-08-17 20:02 | 「感想文」

クイーン ヴィクトリア 至上の恋

女王様出てくる映画の中で こんなに地味な映画も珍しいかもしれない。

というのも 女王がずっと喪に服していて 宮廷中 黒づくめなのだ。

まあ もともと重厚な感じの女王なので そんなに普段から贅沢できらびやかな人だったような感じではないけれどね。


女王を慰めるためにやって来た侍従は スコットランドの人で
キルト(スカート)はいてて、ちっちゃな三つ編みもついてて
ヒゲを蓄えた オジサンである。
女王だからとか 身分が違うからとかそんなことを気にせず
夫の死後気分の転換のできない彼女の心を乗馬や水泳、田舎家への
お出かけで癒そうと 誠実に尽くす。
彼に心を開き、信頼を寄せ、やがては友情という名前の愛情を
通わせていく女王。

ただ 女王は政治をおろそかにするし、息子である王子を疎遠にして
しまうし 宮廷では噂になるし ゴシップネタにもなる。
まあ そうだろう。

そして 彼が取ったのは 一番の友人としての助言。
裏切りと思われて がっかりされても
政治に戻れと言うことだったので。

どんなことがあっても 女王を守ると決めた彼の誠実さ。


黒づくめの衣装とは言っても、フリルや付け襟にレース
編み込みの髪型

水泳の時の重たそうな黒い水泳用(?)の衣装
(反対に男二人の水泳シーンは ボカシ入りのオールヌード)

重厚で でも 恋愛感情なんてのは結構
重そうな人たちでも 結局は単純な作りなんだよね、と思わせる
そんな 女王様の「秘めたる」大人の恋の物語でした。

# by nazunakotonoha | 2011-07-12 23:58 | 映画の感想

リリィ シュシュのすべて

この映画は 辛いなぁ

何せ 中学生の話だ。

観たくないひとは観ない方が良い。

荒れて 荒んで
カツアゲ 売春(強要)イジメ レイプ
どうにもならない(できない、しない)子どもたち。

何にも知らない先生の 普通のこども扱いした
懇談風景が 空々しく
こんなものなのかなぁ、こんなだったら嫌だなぁ
と 思う。
主人公たちは見た目は「ヤンキー」とかじゃなく 普通のこどもたちなのだ。
(ヤンキーが生き生きと元気に明るくケンカする映画もたくさんあるのにね…)

大人はみんな 的外れで
大人の勝手で生きていて。

カリスマ的な歌手を
神と崇めるようなファンたちのサイト。
文字だけの繋がりの中
繋がっているようで 繋がらない 人間関係。

閉塞された世界で
知り合えた「友達」とリアルで会えるはずのコンサートでは
主人公のわずかな幸せの世界は あまりにも 辛い結果で終わる。

酷い目に遭う ふたりの女の子たちの 選ぶ道。
主人公の最後の選択。
(「最後」っていったって この子の人生 本当はこれから長いのだけれど)

この前観た 北野きいちゃん主演の「ハルフウェイ」の岩井監督作品。
高校生がピュアに恋愛で悩んでいた話に比べ
この中学生たちは重くて暗い。
重くて暗いのに 田園風景の美しい緑 さわやかに吹き抜ける風。

うちの息子も中学生なんだけど
こんな辛さだけは 無縁であってほしい。
だけど こういう映画や話に出会ったら(一緒に観てないので)
ちゃんと 向き合って心を寄せてほしいとも思うのだ。

# by nazunakotonoha | 2011-07-12 23:56 | 映画の感想

下流の宴


下流の宴
  • 林真理子
  • 毎日新聞社
  • 1680円
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書評



この中で誰が好き?誰が悪いと思う?心理テストのような物語でもある。自分の嫌な部分垣間見える そんな物語。この物語の感想を纏めようとして 誰が一番好きかなぁ、と考えていると

「川を渡る女」という心理テストを思い出した。
話からは外れるが 説明しておきたい

Lさんの恋人のM君は 川向うにいる。
LさんはM君のところに行きたいのだが、橋が無いので渡ることができない。
舟を持っているB君にたのむと、100万円出さなければいやだという。
Lさんはあきらめて舟を持ってい別の人、S君にたのむが、S君は体を要求する。
M君に会いたい気持ちが強い LさんはS君の要求を呑み、川を渡る。
が、M君はLさんのしたことに怒って、Lさんを捨ててしまう。

悪いと思う方から順番をつけるとどうなる?という問題だ。

結果に興味がおありの方は検索して探してもらいたい。
自分が人生において何に重きを置くかが反映されるのだという。


さて この「下流の宴」の話に戻る。
この話がNHKでドラマになっていて 一話だけたまたま観たのだ。
献本を希望するより前のことだ。

沖縄で育った彼女と結婚したいとフリーターでまだ20歳の翔が 父母の元に訪ねて来るという回だった。

なんともまあ、相手や相手の家族に対して上から目線で 嫌な母親だろう、とその時思ったのだけれど どこか そういう気持ちになる母のことも 理解できてしまう自分がいて それがまた 何だか嫌だった。
それ以降 TVドラマは観ていない。


うちにも中学生の息子がいて 将来何になりたいとか語るような子ではなく
「今」の充実、「今」の楽しみ以外 どんなに説明しても きっと翔と同じように 
「ピンと来ない」状態だろうと思う。


そんな若者の姿も実にリアルで、
それに対し「こんなはずではない」「こんな考え方、感じ方なんて ありえない」と 結局理解できない母の気持ちも あまりにもよく解るのだ。


ネタばれになるが 自分や自分の家族が下に見られ 結婚なんてとんでもない、と
言われてからの 発奮した玉緒のがんばりはすがすがしい。
けれど 結局 翔から離れる原因になってしまうことに 玉緒自身が全くが気づかないのが 
哀しいし その事実を自分勝手な理解で受け止める翔の母に至っては
まだ言うか・・・って感じで愚かしい。
母親なんて(私を含め) 傍から冷静に観れば 親ばかで愚かな存在なのかもしれない。


私自身は愛とプライドのために 玉緒の頑張る姿と 
それによって変化する玉緒の考え方に共感するし
よくやった と手放しにほめたいけれど
当初の目的からすれば 玉緒だって「何か」を間違ってしまっているのだ。




結論なんてないまま この物語は終わるが
人生ってきっと こういうものなのだろう、と少し納得はいくのだ。


いつまでも変われない「福原家の人々」の中 父の言葉に少しの変化をくみ取れる。
母親 祖母、そして翔自身 それに見栄っ張りの姉。
何を受け容れ何を理解しどうしていけば 自身が幸せになれるんだろう。


あるがままを受け容れることばかりが良いとも思わない。
でも 基本は相手の気持ちを尊重すること 理解したいと思うこと…なんだと思うのだ。


# by nazunakotonoha | 2011-07-12 17:01 | 「感想文」

ひとり日和


ひとり日和
  • 青山七恵
  • 河出書房新社
  • 1260円
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書評


飼った代々の猫の写真が飾られた部屋。猫の名は?と尋ねると全部「チェロキー」。
吟子さんという老女と20歳の知寿のたんたんとした生活を描いています。
何も起こらない話、といえば そうなのだけれど
よく考えてみれば 母親が中国に留学し、一人残された娘が 
親戚とはいえ初対面の老女の家に居候するなんて そうあることでもないかもしれない。

知寿という名のその若い主人公は 実は手くせが悪く、こまごまとしたものをくすねるし
楽しそうにボーイフレンドの老人と年齢なりの付き合いを楽しむ吟子さんに
わざと若々しい肌を意識的に見せつけたり ちょっと意地悪なことを言ってみたりする。
いいキャラクターではないし、それが吟子さんとの生活で 癒されたり悟ったりして
「変わる」という話でも ない。

恋をして ちょっとしたきっかけで 付き合って
別に邪魔されたとかドロドロしたことになったとかいうのでもなく
ただ、他の女の子がそこに登場し、二人の恋愛感情がだんだんかみ合わなくなって
なんとなく 疎遠な感じになって 別れて。


吟子さんの言葉に重い人生訓とかがある、というわけではない。
吟子さんもまた たんたんと日々を重ねてきたのだ。
その重みを今軽さに替え何を教えるでもなく 何をおしつけもせず
学びたきゃ学べ、何かを自分から得るんだったら どうぞ。そんな感じで
そこに いる。

死んでしまった猫を ずらりと部屋に飾りながら
どの猫も 写真になってしまったらその名前を「チェロキー」と一括してしまう。
吟子さんにとっての「思い出」とか「別れ」とかは どんなものなんだろう。

若い知寿のすること 感じることを 突き放すようで 受け容れている吟子さんの存在。
まだまだ 成長しきれない 変われないままの主人公が いつか

吟子さんとの暮らしを思い出し 吟子さんから 知らず知らずに教わったことを
思う日が 来ると思う。

読んですぐ ストンと納得のいくような 「若者の成長物語」でもないし、
お年寄りと若者のこころ温まる交流の話でもないけれど 

何となく読者の心の片隅にも この線路ぞいの古い家が 懐かしいものとして残り
いつかちゃんと色んなことの意味を 吟子さんと話してみたいと思わせるのだ。

「チェロキー」たちの写真の後ろに置いておいた 色々なガラクタを 
きっちりとあるべきところに 戻してみたいと思うのだ。

# by nazunakotonoha | 2011-06-04 08:14 | 「感想文」

ハヅキさんのこと


ハヅキさんのこと
  • 川上弘美
  • 講談社
  • 500円
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書評


夢を見ていたような読後感。それぞれわずか7ページ程の掌編集。変な言動を大真面目で言うひとや不思議な感覚を持ったひとと会ってうん?と思った後 そういうものなのだろうと妙に納得する主人公(語り手)がいて。






「ストライク」が好きだ。

ほのぼののんびりした昼寝時。
猫を挟んで眠る夫婦の ゆったりとした時間を見ていると思ったら
むっくり起きた咲子は 「はんこ」を買いに出る。

夫にとてもなついた猫について その所作がさりげなく描かれ
なぜ「はんこ」が必要になったのかが 後で読者にも解る。

そして 用を済ませたはんこは ごみばこに向かって投げられ
かち、かちと ごみばこの底に当たる音を立てる。

猫は咲子の言葉に答え 「ニイ」と鳴く。その絶妙なタイミング。
置いて行かれた者同士。

「あっさりと」、そう あっさりと物語は終わるのだ。
夫婦の時間も 愛猫との関係も。


ここまで書くために 何回か作品のページを繰って
どこかで 作者の言葉の選び方について語られたものを読んだことを思い出す。

「はんこ」はひらがな。鳴き方は「ニイ」。「ごみばこ」もひらがなで「ごみばこ」だ。
これをカタカナや漢字、または別の言葉を使ったら いけない、
作者のことば選び 表記選びはとても大切なものがあるように思える。
そして 一番は 音やうごきを表すもの。


どの作品も さらさらと読んでしまうとふわっとした印象しか残らないのだが
読み返すと内容の深さとか 文章の広がりとかに圧倒されるのだ。
そして 何度でも新しい発見ができる。


ちょっと妙なことを大真面目に言うひとや
独自の感覚を当たり前のように語るひとが
たいていの作品に登場し
主人公とか語り手は 一瞬の「?」の後 
「そういうものなのか」「きっと そういうものなのだ」と納得する。そう、読者と一緒に。

表題作「ハヅキさんのこと」は 女性教師の「友情(こんな書き方すると陳腐だけど)話」で
仕事が終われば 飲んだくれてばかりいたり
全然違う恋愛観をほわほわと(でも その実結構突き詰めて)語り合ったりして
他の小説ではめったにお目にかかれない 「先生」の姿を垣間見る。

センチメンタルな書き方もせず 主人公や語り手も大げさな感情表現をせず
それなのにどこか ずっとひきずる悲しさみたいなものを 読み手は感じたり
懐かしい知り合いに 明け方の夢で会えたような 気がするのだ。


# by nazunakotonoha | 2011-05-07 13:17 | 「感想文」

きみはポラリス


きみはポラリス
  • 三浦しをん
  • 新潮社
  • 1680円
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書評

誰かを好きだっていうことは とても幸せなことだ。いくつかの「好き」の形を描く短編たちは どれも 「好き」である側の幸せを感じさせてくれる。


どの短編が好きだったかなぁと 再度目次を見直してみる。
ひとつひとつが全く違う組み合わせの 人と人の「好き(愛)」の形。

そしてどれもが 私にはちょうど良い温度や空気感であることに驚かされる。
もちろん ただの幸せなカップルの話や、ハッピーエンドな話ではないのだが。

それは語り手の目線だったり感じ方だったり 登場人物同士の関係だったり
すべて同じところで心地良いのではなく、どこかしらすっと入っていけるところが必ずあって
ずっと心地よくその世界を観ていられるのだ。

中でもひとつ、その作品的シカケがあって そこでネタバレをすると宜しくないかもしれないが
(たぶんその語り手が誰か、なんて読者にはすぐ解る、と作者も知った上だと思うので
言っちゃっていいのかもしれない)語り手の「春太」には泣かされる。

娘とうちの猫のことを頭の隅にチラチラしながら この「愛」について思う。
(残念なことにうちの猫は私を一番としてくれないので)切なくて 面白くて
相手の幸せを一番に願う究極の「愛」だなぁと 涙腺を刺激されちゃってならない。
こどもみたいに「うわーん、うわーん」と声出して泣きたくなったのは 
私だけだろうか。(相当 変?)

その他 ロハスに励む同居人の彼に 言いだしっぺの彼女の方が困惑する話には
くすくす笑わされたし、
「誘拐」されながらも 相手に親しさを感じて行き先と時間をゆだねる少女の「冬の一等星」。

語り手の気持ちが痛いほど伝わってくるのは 主人公が男子でも同じで
こんな切ない気持、いつかあったような、こんなんもんもんとしながらも楽しい時間も
そういえば 経験したような、そんな気持ちや時間を思い出し(思い出したような気持ちになり)
懐かしくなってしまうのだ。




# by nazunakotonoha | 2011-04-25 12:59 | 本が好き!

百万円と苦虫女

拾い猫を勝手に捨てて命奪っちゃう人と 
それが頭にきてソイツの荷物全部捨てて
(その中にお金がいくら入っていたとしても)しまうことと
どっちが悪いよ?っていわれたら 
そりゃ 猫の命の方が重いでしょ。

って思ったけど 残念、主人公鈴子さんは刑事事件で罰されて 前科者。

100万溜まるごとに その土地を離れて 誰にも本気で馴染まずに生きていくことにしたんだけど・・・・。

海の家も雇い主家族とも そこそこ上手くやっていたのに
ナンパ男に親しく踏み込まれて逃げ出し(悪い人でもなかったんだけど)


優しく受け容れてくれた 桃農家だったけど 
桃で村おこし(「桃娘」!」)に担ぎ出されそうになり 
飛び出して

小さな町のホームセンターでは
やっと近づくことを自分で自分に許した相手が出来たけど
結局・・・。



ずっと繋がっていられたのは 小学生のいじめられっこの弟で
彼とはずっと文通を続けている。

この弟と鈴子が 家を出る前に心を通わせられたところは
とても良かった。

近づき。声をかけ、一緒に歩き、
服のすそをつまんで並んで歩き、そして手をつなぐ。

団地のだだっ広い草地を 二人で繋いだ手をぶんぶん振りながら
一緒に行く後ろ姿が印象的で 
ああ、ひとと繋がるって こういうことなんだよね、と思った。


結局 ひとは ひとり。
ひとりだから寂しいけど 強くなれて ひとりでしっかり立てた後、
ひとを受け入れたり大事にしたり 諦めたり許したり 
全部失っても また 歩けるんだろうね。

付き合いへたで 人間関係に線引いちゃって 
それでも表面愛想だけなんとか保ってる 
そんなぼーっとした主人公が
とても身近に感じたのだった。


そして こういうハートウォーミング(?)な映画なら やっぱりの はらはらさせといての「ハッピーエンド」?って思ったが
切い終わりで。

それでもいつかは誰かと「ハッピーエンド」も来るかもしれない、と思うし、また誰かと結ばれることだけが「ハッピーエンド」じゃないでしょ?って気にもなる。

色んな経験をして 強くなって
自分が変われるところもあれば、絶対変わらないもののあって
周囲と馴染むことを少しは覚えて
でも それが一番いいことって訳じゃないけど、案外居心地のいいところもあるってことを知って


そしいつか鈴子さんが幸せな一日を過ごせれば それでハッピー。

そういうものなんではないだろうか。

# by nazunakotonoha | 2011-04-25 12:18 | 映画の感想

ぼくから遠く離れて


ぼくから遠く離れて
  • 辻仁成
  • 幻冬舎
  • 1365円
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書評

女らしさ 男らしさ そういうものに縛られない生き方ってなんだろう。どう生きれば 自分らしく生きられるんだろう。これからのヒトの生き方について考えてしまう、そんな一冊。謎の差出人からの メール。

まずは 差出人が誰なのか、という推理小説的な要素で 読者をぐいぐい引っ張って行く。
大学のゼミ仲間、文学サークルのメンバー、隣人、バイト先の年上の女性など どの人も
メールの差出人keyを匂わせて 光一と読者を迷わせる。

差出人の解らないメールに 初めは反発を感じながら 
「普通の男の子」が だんだんと その内容である「女装」へと導かれていく様子は 興味深い。

「女装」というおおざっぱな言葉を使ってしまったが、この物語を読むうちに
これが「自分の好きな格好」「自分をより美しく(外見だけでなく 内面的にも)する格好」が
たまたま彼や同じ志向のひと達にとっては、
メイクを施し やわらかな裾を揺らすスカートを着ることであったということなんだろうな、と感じてくる。

keyの目指すのは 「いわゆる男らしさ、女らしさ」に縛られない生き方。
「女はこどもを産んで夫に尽くす奴隷ではなく、男は一生身を粉にして会社や男らしさのために働かなければならない奴隷ではない」「男も女も関係のない 性差のない世界」だという。

「メイクの似合いそうな可愛い」彼のことを好きだという女の子たちは もちろん彼に「女」になることを求めはしていない。
性同一障害で悩み「女性」として生きることにした隣人、マナは 彼に好意を持ちながら メイクの手ほどきをする。この隣人は彼にどうあることを本当は望んでいたのかな、と思う。

 逆に男装をする女の先輩も彼に好意があるようで、それはどういう形の好意なんだろう・・など
考えているうちに、やがて好意(愛)の形も複雑で、でもそれらのどれもが説明や分類なんて本来何の意味もなく、必要もないことなのだと 気づかされるのだ。

 女装して初めて外に出る時、隣人の「マナ」に 女性らしい声を出し、しぐさをするよう助言される。偏見、嫌悪感 そんなものが世の中には多いから違和感を少しでも取り除く方が良い、と。

 でも、「自分らしく」好きな格好で生きるなら 不自然な声を出したり無理なしぐさをすることもないんじゃないか、(それが自ら望むことなら別だけど)と、読者として私もだんだん解らなくなってきていたが、この物語の終わりでは、彼は「可愛い メイクをした男の子」(ビジュアル系のバンドとかにいそうな)として ひとりで電車に乗り 話しかけてきた女の子と自然に話す姿が描かれる。

 きっとこれが 男女の枠を超えてしなやかに生きて行く一歩を 踏み出した姿なんだろうな、と
思うのだ。

「空っぽ」だとか「無能」だとか自分で言ったり言われて悩んだりした彼が これから何になって
何を掴んでいくのか 知りたいと思う。(自らを題材にした小説を、見事描き上げたということではあるが)

自分探しのセイシュン小説は 昔からずっとあるけれど これは新しい結論の 今の物語。
偏見を捨てて 読んでみて、更にジェンダーについて それぞれが考えてみるのも良いのではないかと思う。

# by nazunakotonoha | 2011-03-27 19:52 | 「感想文」

輝く夜


輝く夜
  • 百田尚樹
  • 講談社
  • 500円
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書評



「永遠の0」の作者の短編集。クリスマスにはハートウォーミングな話が良く似合う。心温まりたい人はぜひ。クリスマスなのに「不幸」。そんなシチュエーションの女性たちが ほんの少し不思議なことに出会って 希望を見つける短編集です。



男性作家の書いた女性のモノローグは どうも感じ方も語り方も ちょっと古風な感じがして 
それが「男性の好む(望む)女性」のようで ちょっと苦手なところがあったりします。
実のところ読んでいて 女性として 心の中くらい、あるいは夢(?)の中くらい こんなに控え目でなくてもいいんじゃないか・・と思ってみたり。

 苦労したり 不幸続きだったりして ちょっと卑屈にさえなってしまった 大人の女性たち。
恋愛や仕事がうまくいかなかったり 大変な病気のため幸せになれないまま生命を終えようとしていたり そんな 人たちが不思議なめぐり合わせで 幸せな時間を得る・・
クリスマスには そういう お話が似合うのはなぜなんだろう。「クリスマス・キャロル」や数多くのクリスマス絵本のように。
暗い道にぱあっと電飾が灯り 子どもたちにもサンタクロースが来る そんな日だからかな。


「永遠の0」のラスト辺りで あれ?と思った ファンタジー的な要素の挿入が この短編集を読み終えてああ、この作家さんは これが書きたい人なのだ、と納得がいった。
どんな戦闘シーンを書いても時代の抱えた苦悩、悲惨を きっちり描き上げても この人が一番描きたかったのは 愛するひとの元に「どんなことがあっても絶対帰って来る」男の姿と それを信じた妻の絆だったのだろう。

甘いなぁ・・・思いながら、ほら 思ったような展開だ、と思いながら でも こういう話が読みたい時って絶対あって 読んだ後 ありがとうって気持ちになる。

重いニュースから目をそらし ドラマを見ても虐待や殺人事件の話ばかり。
こんな 「おとなの童話」も いいんじゃないかな、そう思う。


# by nazunakotonoha | 2011-01-23 01:24 | 「感想文」

阪急電車


阪急電車
  • 有川浩
  • 幻冬舎
  • 560円
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書評


阪急電車の駅で買い、阪急電車の中で読み終わりました。本を鞄にしまって顔を上げ、 他の乗客をそっと窺って そこにどんな人生の一部が見えるのか 知りたくなりました。


女の子の強さと弱さ・・・断ち切った方が絶対いい付き合いでも迷う気持ちや 自分のマズさを認めてるのに 口に出したら泣きだしそうだから あえて「反省してない」ような言い方をしてしまう女子高生の頃。小学生にだってある ぎりぎりのプライド。

ああ、この作家さん、ヒロさんって女のひとだったのか、と知った時 これらの女子の描き方がこんなにしっくりいった訳が 解った気がした。

婚約者を「友達」に奪われて 結婚式に白いドレスで立ち向かうOLや、非常識な相手にはぴしゃりと文句を言える老婦人、外されることを恐れて集団の付き合いに胃を痛める主婦…どの女性もどこかで 「ありたい私」であり 「ありたくない私」でもある。

そして そんなひとたちが 駅のホームの燕の巣への駅員さんの素敵なはからいや 降りた町の何気ない様子に、またちょっとした他の乗客の声かけや 関わらずとも聞こえてきた幸せなカップルの話声なんかに 癒される様子が、読者をも癒すのだ。

ここで私が 話の筋の順に登場人物やエピソードを紹介していないのは ただ私が強く印象に残り、思い出した順なのだが この本自体の作りが 阪急電車今津線の各駅ごとに すれ違う人たちのエピソードを少しずつ絡め、「折り返し」でその後の彼らをまた 別のひとと絡めていく 面白い手法を使っているせいでもある。

全く陰のない、ピュアな恋のエピソードが2つ、「馬鹿だけど優しい」年上の彼を持つ女子高生の恋の話がひとつ含まれるのを紹介し忘れているのは もちろんこれらの話が良くなかったという訳ではない。でも図書館で同じ本に手を出したことで始まる恋の話が この本の最初の挿話なのは 他の女性心理の痛いところを突いた話を読んだ後ではちょっと物足りない始まり方だった気がする。
傍目に幸せなカップルの 素朴な女の子や本好きな素敵な女性だって 実はもっと屈折してたりするんじゃないのかなぁ・・と ほほえましく読みつつも思ってしまうのだ。

ともかく 小豆色の、いつも清潔で品の良い阪急電車が好きな私にとって この本は「読んで楽しい」本だったし この電車で(線は違うけれど)学校へ通った頃 始まった頃の恋愛、色んなことでへこんだことや ちょっと見つけたいい情景を 色々思い出させてくれたのだった。

# by nazunakotonoha | 2011-01-23 01:21 | 「感想文」

しまふくろういきる


しまふくろう いきる
  • 手島圭三郎
  • 絵本塾出版
  • 1785円
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書評

しまふくろうの生きざまをたんたんと描く一冊。
圧倒的に強く優しい 版画の絵は ページを開くたびに
驚きと感動を与えてくれます。

生き物はそれぞれに 全うすべき生き方があって
それはそのままで 美しく素晴らしいものなんだ、と思う。

しまふくろうのメスはオスと出会い 
子を産み育て 巣立ちを見守る。

子を巣立たせたつがいは オスの死まで(死が二羽を分かつまで)共に生き
そしてメスは 静かに残された日々を 一羽で生きる。

オスはエサを探し メスと子に与え
メスは巣を守り オスの帰りを待ち 子を育てる。

いつも命がけで 守ってくれたオスのことを 思いながら
静かに余生を生きる そんなメス。

ヒトになぞらえて それが「良い」のかな「美しい姿」なのかな・・・と 考えてしまうふしもあるけれど それぞれの生き物が そのものらしくまっすぐ生きる、そこが美しいのではないか

人間に関しては しまふくろうにも似た 大昔からの性による「役割分担」を「良し」とするのではなく 時代や社会 そして個性によって 生き方が違うのが人間なんじゃないかな、
なんて 思うのだ。

この物語が美しいのは しまふくろうが しまふくろうとして生きる姿を
まっすぐに 愛情と敬意を持って追うからだと思う。

なぞらえるなと自分で言いながらも 
子どもが巣立った後は 夫と二人で そして どちらかが先に逝くのだ・・・と
親より子どもより パートナーとの時間が 一番長いのだ・・と
そこは やっぱり ズンと感じてしまって その時間を愛すべき時間にしていかなければ、と
やけに真剣に思ってしまったのだった。


 

# by nazunakotonoha | 2010-12-31 15:24

フィッシュストーリー


フィッシュストーリー
  • 伊坂幸太郎
  • 新潮社
  • 1470円
Amazonで購入



こんなこと あったらいいな と思う「ほら話(フィッシュストーリー)」。
しお味だってコンソメ味だって 逆になったって 美味しい。
美味しくて嬉しくなって泣けちゃうのはなぜなのか・・・そんな話「ポテチ」。
他2作。


実を言うと「ポテチ」の塩味で泣く今村くんについて そこは深く考えずに読んだ。
会話のひとつひとつも さらさらと読んだ。(だって 読みやすい文章だし)

今村くんが冷凍庫のアイスにいちいち名前を書いて 取り間違うことのないようにすること
寝っ転がって(空き巣に入った家で) ふたごの出てくるマンガを読んでたこと
大西さんが野球について関心が薄く 「ホームランってただ打球が遠くに飛ぶだけ」と言ったこと


散りばめられたパズルのピースは 後で考えるとあまりにも 伏線だと解りやすく
むしろ出来すぎているのに どうして こんなに その場では
引っかかることなくするする読んでしまうのだろうと思う。

悔しくもある。

もともと あまり推理しながら読む方ではないので 
いちいち 引っかかりながら読まされるのも 良くないかもしれない。

今村くんと大西さんの ふわんとした関係が心地よかった。

表題作 「フィッシュストーリー」は 素敵なおとぎ話。
スーパーマンみたいな人になるようわが子を育てられるなんてこと 
なかなかできる訳ないんだけれど
何かがめぐりめぐって 誰かに繋がり
もしかしたら 地球だって救っちゃうかもしれないよねっていうのは
何だか 考えるだけで 嬉しくなっちゃう想像だ。

売れなかったバンドの最後のアルバム。
本当に伝えたかった叫びが 収録されず無音になったところの 
大事なことを聞くための「静寂」になり それがめぐりめぐって
「何か」を伝えた ってこと。
こんな風に 誰かに届くなんて 面白いなと思う。




# by nazunakotonoha | 2010-12-03 22:15 | 「感想文」

ベス・チャトー 奇跡の庭 グラベルガーデンの四季便り


ベス・チャトー奇跡の庭―英国・グラベルガーデンの四季便り
  • ベスチャトー_::_スティーブンウースター
  • 清流出版
  • 3990円
Amazonで購入
書評






緑はひとを癒す力があると思う。
ベスの作る庭の植物は 力強くてしなやかでのびやかだ。
いつでも 傍に置いて どこからでも 開いて見たい。素晴らしい写真の数々。

鉢植えが苦手で すぐ枯らしてしまう。
枯れた鉢の土を 隣家との隙間のわずかな土の場所に捨てて置いたのが
いつの間にか 小さな芽が出、毎年花を咲かすことがある。

同じその狭い土のところに 鳥が運んだ種から育った 小さな木の芽を見つけた。
それを 裏手の また小さな土の場所に 気紛れに持って行って 植えたら
今や 2階の窓まで届く 大きな樹になって 剪定に苦労している。

べスの作る庭の話から大きくそれてしまったが 
植物の持つ力と土の力 何より 地面から得られる養分と水は何物にも代えがたいのだと思う。

英国でも植物の栽培には最も過酷な土地、乾燥し風は強い そんな地に
奇跡のような美しい庭がある。
日本庭園やベルサイユの庭とは 全く趣を異にし 
まるで その草花たちが自然にそこにあるように その季節にあるがままに育ったように
生き生きと のびやかに そこにある。

けれど そこはもともと 草木の生えるような土地ではない。
長い時間をかけ、元の土質を踏まえた上で改良し そこに適した植物を植え
手入れして 作り上げた庭なのだ。

手入れの仕方にも 感じ入るところがある。
枯れたから抜き 次に「きれいな」ものを植えかえる、というのではない。
葉が落ちたもの 色が変わったものも
その枝ぶりや枯れ具合を これからの季節 これから育つ植物と併せ
霜や露、夕暮れや 空気感と併せて 思い浮かべ
美しい絵になるとなれば 残すのだ。

一つ一つの植物への造詣と愛情の深さ。
元からある大地、自然への 敬意。

表紙の写真にある 自然に溶け合うような彼女の優しい姿と
内に秘めた情熱 諦めない強さ 

どのページを開いても ため息が出るような美しさ。
文章はかなり専門的なところもあるので 続けて読み続けるにはちょっと根気がいるが
そんな時は 思い切って 気になった章から読むことをお薦めする。

植物のことを書いてありながら 何か人生に必要な大事なことを
教わるような そんな文章に出会えると思う。



# by nazunakotonoha | 2010-12-03 21:32 | 「感想文」

モノレールねこ



モノレールねこ
  • 加納朋子
  • 文藝春秋
  • 530円
Amazonで購入
書評




最初が表題作の「モノレールねこ」。
「少年らしい語り口」というのがちょっと苦手で(いかにも「大人が書いた」子どもの言葉風で)
しっくりゆかず進まなかったのだけど、
「モノレール」由来にくすりとし、ねこが介する交流にわくわくしてみたり。

どれも失くしたものを見つけたり見直したりする話。
にんげんって辛すぎる思い出は記憶にフタを閉めて忘れたふりして生きてるのかな。
でも 完全に忘れきれなくて 心にずっと引っかかる。
やはり いつか向き合っていかないと 本当の解決には至らないのだと
そんな風に思う。


生きるのがうまくない人たちを温かく見つめるザリガニの話も 良かったです。
帯に、解説にあるように 「泣かされる」話です。 ​


私はなかでも「パズルの中の犬」が好きでした。

# by nazunakotonoha | 2010-11-21 21:49 | 「感想文」

ロック母


ロック母
  • 角田光代
  • 講談社
  • 1365円
Amazonで購入

いい人ばかり出てこない、というよりひと癖ふた癖あって当たり前で 嫌なことがたくさん起こり主人公は心の内で毒を吐く。ハッピーエンドでは けっして終わらない小説群。それでも角田光代さんの本は また読みたくなるから不思議だ。


「ぐれた娘が最後に○○してしまう話」とか「島が嫌で出て行った娘が身ごもって帰ったら お母さんが『ひきこもり』になってロックを聞いていた話」とか「海外旅行で行きずりの出会いをした話」とか 角田光代さんの描く話を かいつまんでしまうとこんな風になってしまうんだろうか。

じゃあ 何故こんなに惹きつけられるんだろう。何でこんな嫌なことばかり起こって ハッピーエンドにもならない話を読んで 読後感が嫌な感じにならないんだろうか、と考える。
(私自身、悲しくて泣かされるような話はあまり好きではないけれど、基本「良かったね」で泣くのは好きなのだ)


角田光代さんの短編は (私の記憶が合っているなら)たいていの話が一人称で語られている。
周囲の人を見る目線、出来事を語る言葉は だからすべて主人公の目線だ。
そこには 作者が「こうあるべき」とか「こう読みとって下さい」という押しつけ的な書き方はない。
風景も音の聞こえ方も 相手の言葉の受け止め方も 主人公の年頃で立場でその性格ゆえに
心に映る それを描写している。

そして それらの主人公は みんな 今の状況に不満や不足を常に感じ、周囲のさまざまな事の理不尽に悩まされ 怒りや呪いさえ感じながら生きている。

それでも 自分だって不完全で、もしかしたらこのマズイ状況は 自分のせいでもあったりすることもちゃんと知っていて、怒りながら 呪いながらも 案外と世の中と平和にあいさつを交わしたりすることもできる少女たちだ。

(少女だった人たち、あるいはたまに男性のこともあるが)


明るくて平和な日々を過ごし 心の中でもんもんとモノを考えたことのない人が読んだら
全然 面白くないかもしれないな、と思いながら
でもきっと こんな風に「だれか殺してもいいと神様に言われたら」ご近所のコイツとコイツを殺すのだ、とか お父さんが死んだらまず「万歳」を言おうとか そんなダークなことを 声には出さず考え続け、それでもちゃんと世間となんとか馴染みながら 見た目はのほほんと生きている
そんな自分を皆 どこかに隠し持っているのではないか とそんな風にも思うのだ。

# by nazunakotonoha | 2010-11-15 02:02 | 「感想文」

プリズムの夏 


プリズムの夏
  • 関口尚
  • 集英社
  • 480円
Amazonで購入
書評




ネットで公開された日記の書き手に 心惹かれる・・っていうこと ありますか?
案外 近いところにいる あの人ではないか・・そんな風に 想像したことありますか?


身近にありそうで ないような そんな話。
心が壊れかけの女性と、それを支えようとする男子高校生 親友同士。
ネットの日記が絡むというシチュエイションが気になって、購入。


最近出た色々な賞を取った本を読むにつけ 思うのですが
内容も、表現もたいていの「上手」のラインよりそりゃあ上だから、
後は、作品から滲み出る作者の物の見方や、作品に託すメッセージ、
あとは、作中の人物に自分がどれくらい惚れ込めるか・・
そんなところが 「好き」のポイントになってくるように思います。


さて、この本ですが・・

主人公たちが魅力を感じ、話の発端になるネット上の「日記」。
実際にもネットを巡ると、色々な心のや傷を抱える人の日記やサイト、詩などに触れることが出来、どんな暮らしをしているかまで、具体的には書かれてなくても、気になり、惹かれることもあり
作品としてでもレベルの高い内容のにも 出会えます。

この作品のために、作者が登場人物の女性に成り代わって書いた「日記」が、
主人公の少年たち惹かれる程 光って見えない気がしてしまうのは  
私が 「日記の書き手」と同性だからでしょうか。
それとも これはただ個人的な「好み」の範囲の話でしょうか。

上手下手ではなく、こういうことってもう、読み手側の感性の問題で、
でも、ここで躓いてしまったら、作品全体を受け入れる自分のテンションが下がってしまいます。

日記に恋人のことを「アノ人」と書く。
そのカタカナの「アノ」の表記法が苦手とか、非常に瑣末で申し訳ないけど、そんなところに引っかかったり・・。



驚愕のどんでん返しを一瞬想像したけれど、それは流石になく、
爽やかに終わってくれて良かったとは思います。 

ちょっとしたことから関わりを持つことになった誰かために 一生懸命になれる若い二人が
何だかまぶしい 一冊でした。


# by nazunakotonoha | 2010-11-11 16:48

告白


告白
  • 湊かなえ
  • 双葉社
  • 650円
Amazonで購入





どんな感想を書こうかと ずっとずっと考えていた。もう1カ月以上たったかもしれない。
事件として それに関わった人たちへの感想、それとも 作品としての手法への感想
それとも、実際こういった事件が絶対起きないとは言えない 社会への感想・・・
どれもこれも 手ごわくて 何も書き切れない気がする。



文庫版には 映画監督のインタビューがある。映画は観ていないのだが、これが実に気になって また 読後感を大きく動かしてしまう文章だ。

ということは 感想を語る上で 余計なのかというと そうではない・・・と思う。
ただ 筋を読む以外に 自分のものの見方、作品の読みとり方を 左右する衝撃があった。

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日記とか告白とか手記とかで 最後にタネあかしする作品は多いし
それで読者も納得さられちゃうんだけど この本はそんな単純ではなさそうだ。

この作品を映画にした監督のインタビューが 文庫版の後にあって
「告白」だって「手紙」だって「日記」だって 嘘がつけ
読み手を意識したものなら なお 正当化とか自己防衛の意識とか
自分が思う「自分像」を意識的 (または無意識にも)作っちゃってたり できるということが
ちょっと書き方は違うかもしれないが そのように語られていた。


そんなことを考えて 読後感を整理すると
訳わかんなくなっちゃった・・・というのが 素直な感想です。


単純に そうか コイツも案外カワイソウなヤツなのか
先生も大変だったんだね とか
ああ、裏でこういうことがあったのか とか
「真実」はこうだったんだ・・とか

それも これも 
本当かどうかわからない となった時

それがまた 作者の意図なのか どうなのか
実は 作者は素直に読めよっつて 思ってたりするんだろうか なんてことさえ
「解らない」となった時 改めて読み返したらまた 別の読後感があるかもしれない。


映画を作る人っていうのは 沢山のスタッフとか出演者を束ね
指導して 自分の作品を作るわけで
完成時 押しつけ的な出来にならなくても 先に自分なりの「解釈」が 
必要になってくるってことを 考えさせられてしまう。

あやふやな感想ばかり日々 書いている私なので なんか 妙に そこに感心してしまったのでした、(本の感想にはなっていない)
更に言うと 私は 映画を観ていないので 映画の感想にもなっていませんが・・・。

実際に少年Aは 「人を殺せる」ものを作れる技量や度胸があったのか、
また「先生」は どうなんだろう?
関わった あの少年も少女も 母も。

真実は「藪の中」、そんな話なのかもしれません。


# by nazunakotonoha | 2010-10-31 09:04 | 「感想文」

幸福な食卓


幸福な食卓
  • 瀬尾まいこ
  • 講談社
  • 520円
Amazonで購入
書評



今日からお父さんは「お父さん」を辞める
そんな宣言をされて 家族はどんどん崩れていくのか と思ったけれど それは違う。
家族の絆とか 思いあうこと、支えあうことそういった大事なことに 気づかされる。 


人間を癒すのは やっぱり人間なんだろうな。

それは、凄く立派な言葉を持った人でも、
大げさな思いやりでもなく
さり気なく 不器用で 本人さえ意識しない
そんなことかもしれない。
もしかしたら、ひとつのことでなく、繰り返される日常のささいな出来事であるかもしれない。

「気づかないところで キミは守られているんだ」と家族について 彼に言われ
そうなんだ・・と気づく主人公。
誰もが どこかで守られ 支えられ 気遣われていて 
そんな温かなところに いるってことに気づいていないのだ。


後半でいきなり展開を見せるところがこの話のキーになるんだけど、それをここで書いたらネタばれもいいところなので、書きません。


この話でおもしろいのは、決して手放しで褒められていないような人たちが、大事なきっかけや、
素晴らしい癒しを主人公たちに与えてくれること。
かなり変わったキャラで登場する 兄の「彼女」。そのキャラクラーが不器用でちょっとぶしつけで、でも いいんだな・・・。


人に対する作者の強くて温かい想いが、心にしんしん響いてくる。
いい本に出会ってよかったな。
また宝物が増えた、そんな感じです。

# by nazunakotonoha | 2010-10-31 06:18 | 「感想文」

国境の南、太陽の西


国境の南、太陽の西
  • 村上春樹
  • 講談社
  • 540円
Amazonで購入

評価の高い作家さんだからこそ わざと疑問抱えて読む。
筋やセリフに いちいち文句付けながら 読むんだけど、
それでもやっぱり ちゃんと最後まで飽きずに読んでしまう。

やられた、といつも思うのだ・・。この人の作品を読むと いつも思う。
何で 読めちゃうのかなぁ・・。


リッチな生活。満たされない心。
待ってくれる妻 かわいい子ども。

12歳の時から引きずるのは
惹かれあった女の子。
足の悪い・・一人っ子仲間。

再会し 想いを遂げる。


浮気するおとこ。
本気になる おとこ。
秘密を秘密のまま 去っていく彼女。

通り過ぎ 傷つけてきた幾人かの女の子たち。


スジだけ追うと ドロドロドラマにもなりかねないんだけど
「ムラカミ マジック」・・
「ハルキ節」・・・

主人公の心理描写。 葛藤 あきらめ 正当化・・
ありえない程 理屈っぽい(知的な)会話。

美しい比喩 繊細な情景描写。巧みな擬人化。
キレのいい けして長すぎない文章。


カギとなる 謎を必ず後に後に残し 
主人公の嫌なところを 理由づけや 描写、表現で巧みにフォローし
先に起こるだろう事を 少しだけ予見させ


うーん 読ませてしまうのよね・・・。

読んでしまったわ・・・

と 思うのだ。




# by nazunakotonoha | 2010-10-30 06:37 | 「感想文」

史上最強 乙女のバイブル。


これで、あなたの運命がキマル!史上最強の乙女のバイブル。
  • 上原愛加
  • 学研パブリッシング
  • 1575円
Amazonで購入
書評

生きることに ちょっと迷って 
どうせいいことなんてないなぁ・・・なんて 
自分の運のなさにがっかり あきらめモードの女の子 いませんか?
批判的で懐疑的な気持ちを まず捨てて 
「幸せになりたい」「幸せを感じたい」ピュアな心で読んでくれる「乙女」にお薦めします。

スウィーツ(特に マカロン!)、小花柄、パステルカラー、うさぎのキャラ。
ちょうど今 我が家に溢れる素材(上の娘はデザインの勉強中)と 被るところもあり
そんな癒しの画像満載の本と聞き 手にしてみたいと思ったのだ。

気づいてない 自分の周りの優しさや温かさ。

「気づかないところで守られている」って言われてたのは 先日読んだ「幸福な食卓」の主人公だけど まさにそれに気づく幸せ っていうのは大きいと思う。

不幸だ、何もかもうまくいかない、
「自分なんて・・・」

そんなあきらめや 責任転嫁の恨みつらみや 後ろ向き思考で 「殻」を作るのは
やっぱり 自分自身なんだろう。

ポエムや たとえ話、感謝のお手紙、かわいい画像 色 手触り
どこを気にいっても構わないから 

うつうつと過ごしながらも ここから引っぱり出してくれる救いの手を望んだままでいるのなら
こういう本も いいんじゃないかな、と思う。

努力しなさいとか 変わりなさいとか 辛いことをしろと言われるのではなく
あなたはそのままで ただちょっとだけ物の見方を替えればいい。
女の子はみんな 「プリンセス」で「ステキな乙女」なんだから、って この歳で言われても ちと恥ずかしいけど
よかったね、とか ありがとうとか 小さなことでも 毎日思えることって
本当に大事だし 何より 自分のことを好きでいることは大切だと思う。

この本のメッセージが この本を必要とし 書かれてあることがふんわりと心に吸収できる
「乙女」に 届くといいな と思います。


# by nazunakotonoha | 2010-10-25 17:52 | 「感想文」

永遠の0


永遠の0
  • 百田尚樹
  • 講談社
  • 920円
Amazonで購入

知覧を訪ねる旅で 沢山の若者の写真を見た。若いまま 写真の笑顔のまま 時を止めなくてはならなかった特攻の人たちだ。
その中に 叔父の姿もあった。一度も会うことのできない血縁。

そんな兄の生きざまに ずっとこだわり続けている私の父。その想いについて詳しくはまだ 聞いてはいない。この本を手渡したら 父はどう読むだろう。喜ぶだろうか、悲しむだろうか、怒るとしたら それは どこに向けての怒りだろうか。
叔父のこと そしてその叔父のことをずっと想う私の父のことを考え、考えながら 読んだ。


特攻で逝った実の祖父 久蔵について 全くその人柄も生きざまも知らなかった孫が 
共に時代を過ごし戦った人を訪ねて行く。
それぞれの苦しみや悲しみ 怒りを抱えた 老人たちの言葉を通し
宮部久蔵という人の人間像だけでなく 当時の日本の状況や 戦争のさ中 実際に空中で戦った飛行機乗りたちのさまざまな感情や遭遇した出来事が明らかになっていく。

「臆病者だった」と、まず ショッキングな批判から始まった久蔵の人物像が 
やがて 時代に流されず「家族の元に生きて帰りたい」と臆さず言う強さのある人
一流の飛行技術持ちながらもけしって威張ったり人を見下したりしない 温厚で誠実な人柄を 浮き彫りにしていく。
それが今度はまた そんなひとが何故「特攻」で命を落としたのか、という疑問に繋がり
ぐいぐいと 読み手を引っ張っていくのだ。

孫である姉弟を通し 現代の若者の日常の「仕事と恋愛」を挿入することで 時代の推移をくっきりと示しているが 本当に今の時代の「苦しさ」「悲しさ」なんて 生ぬるいなぁと思うのだ。
「生きる」っていうのは そんなもんじゃないんだ、「愛している」なんて言葉は当時のひとは簡単に言わなかったけれど 「愛するひとのため」にどれだけ命を賭けたか、重みはどれ程のものか。そんなことを 胸が苦しくなってくる程 訴える。


物語の締めくくりとして 久蔵と妻と再婚した夫(孫たちにとっては優しい「祖父」)についての謎解き的なものもあり それもまた感動的ではあるのだが
多くの資料に基づき力を込めて描かれた空中戦の場面や、航空兵たちの生きざまや日常の方が
リアリティを持って心に突き刺さってきた。

今鳴いているセミの次の世代が7年後 どんな世の中を見るのだろうと 出撃前の若者が考えたり
老人が 子どもの運動会で盛り上がる人たちの中で ふと 「戦争が終わった」こと、「生きている」ことを思い、涙する場面、そうとは知らず 夜、ずっとうなされていた老人を妻が黙って見守ってきた話など 細かいエピソードに 心が揺すぶられる。

生きるっていうことはどんなに大事なことか。生かされている私たちの「今」をもっと真摯に受け止めなければ このひとたちに恥ずかしい。


 やはりこの本を持って父に、そして叔父の遺影に会いに行こうと思う。

 

# by nazunakotonoha | 2010-10-18 02:17

ミス・ポター

青いジャケットの「ピーターラビット」の生みの親
ポターさんは30代 独身女性。
上流階級を強く意識する母と、芸術を愛し理解する父。
時代は職業を持つ女性も珍しい頃です。

そんな中で、子どもの頃から 絵が好きで
特に動物たちの絵を描き続け、心の友達としています。
彼女の中ではもう、ピーターたちは生き生きと動き回る大事な仲間。

それが映画の中では、上手く表現されていて
あの愛らしい絵たちが、時折表情を変えたり、動き出したりします。
こんなちょっとしたファンタジー要素もあるんですが、
物語自体は、実に現実の人間の生き様を真っ直ぐに、静かに追っていきます。


何よりもステキだったのは
ピーターラビットの本が出来ていく過程と その時見せる主人公の
あふれ出す喜び。
印刷所に行って(お嬢様育ちの彼女としては、考えられなかった場所です)、絵のすり具合を見、納得行くまで何度も何度も刷りなおしてもらう。
だんだん出来ていく 本。
店頭に並ぶ 本。
売れていく 本。

そして、父が自ら「お金を出して」買ってきたのを 取り出す瞬間。
そのわくわくした感じ。
地味な30代の女性が 頬を染めて、目を輝かせて 
少女時代からの夢を実現する姿は 何ともほほえましくて。

そして、そんな彼女の夢の実現を共に果たすのが
編集者の男性。
「身分違い」の恋。
反対を押し切って、二人は結婚の決意を固めます。


さて・・・


色んなドラマを見て 毒されてしまった私は
こういう幸福を重ねていく筋を ああ、これはきっと・・・
きっと、その後に来る、と「不幸」を予測してしまうんです。
来るぞ、来るぞ どおん。。と、
来ないで、来ないで・・お願い 

でも 一波乱 ないと ドラマにならない・・のは解っている。




やはり・・・来てしまいました。


悲しみの表現がまた 凄い。


表現する人の悲しむ時はきっと こうなのだろう・・
描く人が 苦しむ時はこんな風なのか・・・

愛らしいキャラクターを一心に描く彼女。
描いて、描いて、描いて
でも 心の穴は深まるばかりで
いつしか 愛らしいキャラクターたちも 深い闇に襲われて
絵の向こうに去っていってしまう。

限りない 絶望。



そして、彼女は 美しい湖畔の自然溢れる地に
ひとりで住まう決心をして 旅立ちます。
絵本に出てくるような 田舎の家。
景色がまた 素晴らしく美しいです。




2時間があっという間で 実のところ、少し「物足りなさ」を感じてしまう程、静かな映画でした。
派手な演出を控え、かなり史実に基づいたらしいです。


音楽も、可愛らしい歌で とても癒されます。



と、とりとめなくなりましたが、感想でした

# by nazunakotonoha | 2010-10-17 00:24 | 映画の感想

すべては愛のために

BSで夜、やっていた映画。
綺麗な女優さんだなぁ・・というのと
エチオピアの難民キャンプの様子が、
これって、ドキュメンタリー?って思う程リアル(に見えた)な映像が目を引き
もう始まって15分くらいたってたのですが、最後まで観てしまいました。

「すべては愛のために」が邦題。
「国境を越えて」が原題。

うーん、このふたつの題名、意味 大きいかもしれない。


エチオピア、カンボジア、チェチェン。
医師として危険を顧みずその地へ赴く男性と、裕福な家庭、ダンナと子どもがいながらも、彼に惹かれ自らも支援活動、国連の仕事に身を捧げる主人公サラ(アンジェリーナ・ジョリー)

飢餓状態の子どもがハゲタカに狙われたり、麻酔もろくになく、ハエが飛ぶところで、その子の母親が手術をうける様、
砂漠に倒れたまま朽ちていくひとや 手榴弾を持たされたあどけない赤ちゃん、
様々な「今」が映し出され、平和な日本の外にある、現実の怖さがひたひたと迫ってきます。


途中から、あれ、話が変わってきた・・と思ったのですが
そもそもの見方を間違えていたらしい。
この映画は 「国境を越えて」も追いかけ危険を顧みず、何もかも捨てていく主人公の「すべては愛のため」の行動を描いたものだということです。
恋愛映画だったのね・・ふうん。と改めて納得する。


実際のボランティア活動をなさってる方や、本当の意味での「現地」を知っている人から見たら、どうなのかなとは思いますが
どういう入り方をしたとしても、平和な日本の日常だけ見てる目を 少しでも外に向けられたら、それは意義深いのではないかな。

地雷は、踏んだと気づいてから 爆発するまでに少し時間があるんだ、と知りました。

# by nazunakotonoha | 2010-10-17 00:03 | 映画の感想

大停電の夜に

以前クリスマスが近づいた頃、ケーブルでやっていた映画。

たいてい洋画をやっているチャンネルなんだけれど
たまたま 邦画をやっていた。

雰囲気が洋画の翻案っぽい。


イヴの日に東京が停電。
その間に 少しずつすれ違う様々な年齢、関係の二人ずつ。

停電して はっきりした影響は 電車が止まったこと
エレベーターに閉じ込められたこと
明かりがつかないこと
冷蔵庫も開けてみたら 温かくなりかけていた。

でも、それくらいかな・・。
パニック映画ではないので、その辺りはずいぶんソフトで、
平和すぎるくらい平和です。

キャンドル屋の女の子が出てきて
そこの店から 周りをずらっとキャンドルがともされる。
お向かいのジャズバーのマスターには会いたい人がいる。
キャンドルの明かりの中、少しずつほぐれていく過去。

キャンドルを買って帰った男
その男が振った不倫相手は、エレベーターでベルボーイと締め出されます。
ベルボーイは遠距離恋愛に不安を覚えていて。
密室でふたり、少しずつ恋の話をするうちに、友情のようなものさえ芽生えます。


男と妻は久しぶりにキャンドルの明かりの中で
静かに食事して 会話をはじめ、

男をこどもの時捨てた母親、その夫

ここの二人は他の人たちと絡むところはないけれど 乳がんのモデルの女の子と天体マニアの少年。


いつも以上に ライトアップされるはずのクリスマスの街。
停電になったら どんなに暗く感じるでしょうね。

少年と、明日手術を受け、乳房をなくす女性が
星空の下、自転車を走らせる

老妻の過去を聞かされ、ショックを受けて飛び出した夫が、たまたま出合った「ひとついいこと」。

誕生する命っていうものは、見る人を前向きにさせる力があるのでしょうか。


それにしても、誰も寒そうでないのは ちょっと不思議。
ある意味 ファンタジーかも知れません。

# by nazunakotonoha | 2010-10-16 23:58 | 映画の感想

静かな黄昏の国

全然 予備知識のない作家さんだった 篠田節子。

短編の一作目。「リトル・マーメイド」。
可愛い題名に騙されてはいけません。

「マーメイド・リマキナ」
それは「水槽で飼う軟体動物」、うーん、私のイメージでは、ウーパールーパーとか 
ああ、クリオネってとこでしょうか。実際にはいないみたいですが。

それがね、鑑賞用に流行るんですよ。最初はゴミみたいに小さいものを拡大して鑑賞する。
それがなんとヒトの形によく似ていて。
擬似手足、擬似生殖器。扇情的にも思えるそのひらひらする動き。
(実際はそこは呼吸器なんだけれども)

改良して 肉眼で鑑賞できるようになり、さらにマニアが増える。
複数のマニアの様子を並行して書いてあるんだけど、そこは現代の話、
ネットでの情報交換があるんですね。直接の交流はないんだけど。

ヒトの形に似た生き物。ただし 似てるだけ。
なのに、それを大きな魚に食わすとか、では、自分でも食ってみよう・・ってなった時、
禁忌を破る快感に変わったり、性的興奮を伴ったりするんだろうか。
その描写がひたひたと怖い。

加工や過熱に向かないから、と「人魚の踊り食い」をする美食家たち。
「ゲテモノ食い」から「高級グルメ」に変わっていくその描写は、
日本人の最近のグルメブームや薀蓄たれるヒトたちへの冷静で批判的な作者の目を感じます。

甘エビみたいな食感ともっと濃厚で何ともいえない美味。
見た目は小さな人魚。

さて、あなたは食べられますか?



読みながら、ええー、次の日寿司の予定なんだけどなぁ・・と青ざめました。
甘エビ、食べたけどね。

# by nazunakotonoha | 2010-10-16 23:40 | 「感想文」

セレスティーヌ


セレスティーヌ―アーネストとの出会い
  • ガブリエルバンサン
  • ブックローン出版
  • 2520円
Amazonで購入



くまのアーネストおじさんとねずみの女の子セレスティーヌ。
繊細な線画の やわらかな動き、細かい表情の描写。
温かな心の通い合いが伝わってくる 宝物のような絵本。



どんなにこの絵本シリーズが好きか 
言葉に尽くせない。

小さなセレスティーヌの さびしさや小さな焼きもちや 何よりアーネストへの愛情
そして アーネストの大きな愛、包容力。

明るい原色の 子ども向きの絵本もまた いいものが多いけれど
これは また違った 絵本との出会いを与えてくれる。

こんなにも 豊かな こんなにも 美しい 絵本があったのかと
シリーズを図書館で見つけるたびに 素晴らしい喜びを与えてくれる。

珠玉 という文字が まさにぴったりの 
宝物のような 絵本です。

# by nazunakotonoha | 2010-10-16 18:21 | 絵本の感想

神様がくれた背番号



神様がくれた背番号
  • 松浦儀実
  • 楓出版
  • 1575円
Amazonで購入
書評

ケンちゃんは吃音がひどい ホームレスだ。
そんな ケンちゃんが 40歳の誕生日に神様からご褒美に 夢をかなえて貰うことになる。

ケンちゃんの夢。
「世界一野球の上手い40歳になって 阪神タイガースで活躍する」
そこから 物語は始まるのだ。

職業作家ではない、人気ブロガーの書いたものが 本になったと聞き
まずは 文章の善し悪しを気にしつつ 読み始めた。
始まりはちょっと面倒だし 比喩や情景描写、会話文の後の話し手についての記述(誰で、どういう風にしゃべったか・・とか)を 上手い作家さんと比較したりしてやや批判的に読み進む。

だけど 読むうちに伝わってきたのは 表現したい気持ちの大事さや 発想の持つ面白み。
読者がどんどん愛着を持つようになってくる 登場人物の魅力。

「ホームレス」繋がりで言うわけではないが 芸人さんが書いて話題になった「ホームレス中学生」を思い出す。

人間が人間に優しい。
書き手の「ひとの繋がり」への温かい気持ち。どんなひとをも受け容れる気持ち。
応援する周囲、そして何より 「頑張るひと」への惜しみないエール。
作中人物は いつしか 読み手の「仲間」になり、その頑張りは 読み手の力となり支えとなる。

ケンちゃんの言葉を 聞きわけることのできる少年は 心臓に生まれつきの疾患があり
ケンちゃんの周りのホームレス仲間も それぞれが過去を抱えている。

ケンちゃんの「夢」はそんな周りの人たちを 勇気づけ 希望を与える。

急に「世界一野球がうまい」ひとになったって そのまま いきなりスターになるわけではない。
ケンちゃんに苦しいトレーニングを課したコーチの 野球選手の「心」を育てる話に胸打たれ
実名で登場する(フィクションの)選手仲間たちのおちゃめで優しい男たちの姿を 心から
ステキだなぁと思う。仲間であることの素晴らしさ。心の広いオトコたち。


阪神タイガースへの熱い思いと 阪神ファンへの愛
身近な地名と 浮かぶ周辺の様子

時々 この物語を懐かしい過去の出来事のように 思い出す日が来るかもしれない。

# by nazunakotonoha | 2010-10-16 15:45 | 「感想文」

香水~ある人殺しの物語


香水―ある人殺しの物語
  • パトリックジュースキント
  • 文藝春秋
  • 770円
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書評



現代日本人、においにはうるさい。
トイレだけでなく玄関、リビング 台所。ゴミならともかく、服に靴。
消すだけじゃなく つけて誤魔化すって発想も 昔からあるようで。
日本でも香を焚く、外国は香水の発達。


ところはフランス、18世紀。
貴族は優雅なドレスに羽飾り。
幾何学模様に刈り込まれた美しい庭、飽くなき美食への欲求。

けれど、主人公が生まれおちたパリは 世界一臭かったそうだ。
市場の足元に散る魚のはらわた、貧しい者たちの汚れた服 髪。
不衛生で乱雑、そんな中で産み落とされ、殺されかけた赤ん坊。

愛されるなんてこれっぽっちも知らないで、愛するって感情がどんなものかも知らない。
嗅覚だけが異常に鋭い ある意味天才。
きつい皮なめしの仕事の合間に 初めて嗅いだ 通りすがりの少女の香り。
ふらふら後をつけ、大胆にも背後から鼻を近づける。
それが、相手にどういう風にとられるか、なんて思いもしない。
騒がれまいと口を封じているうちに、その少女は死んでしまうのだ。
そしてその芳しさは
いつまでも同じに残らない。

どんな遠方の匂いも、どんなに複雑に調合した香水も嗅ぎわける才能。
神の贈り物であるその特技を使い、彼は香水調合士の弟子になる。
彼が一番欲しかったのは ずっと忘れられないあの少女の匂いだ。

あの香りをこそ留め いつでも手にして匂いたい。
究極の香りを探り始めた彼。
驚くべき手段。
次々に その目的のために殺められてゆく美しい娘たち。


映画の宣伝でチラチラと見せた映像のせいで エログロ系かと思いましたが、
そこは香りの持つ強い力を示すための説明的とも言える場面でした。
文章にすると 印象は違ってくる。


匂いを言葉に置き換える作業、映像にする作業は 難しい。
どんな風に描くのかも 興味深いところです。

愛を知らず育った「天才」の偏執的な想いが こんな形の事件になって、
物語としては最終的にトンデモナイことになってしまうのですが
ともあれ、「匂い」を文章にし、また、映像にして世に問いたいなんて思うモノカキさんや映画監督さんなら、この主人公の気持ちが 解るのかもしれませんね。

# by nazunakotonoha | 2010-10-15 08:46 | 「感想文」

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